
そば屋の店名に「庵」が多く使われる理由とは?
ざるそばやかけそばをはじめ、地方独自に進化した出雲そばやへぎそなど、日本全国ではさまざまな種類のそばが食べられます。
そんなそばを提供するお店の店名には、「庵」とつくことが多いと感じたことはありませんか?
そもそも「庵」ってどういう意味?
「庵」とは、建物の名称のひとつ。
現在ではそば屋をはじめ、さまざまな飲食店で店名に「庵」を用いていますが、もともとは、風流人など浮世離れした人や僧侶が使う質素な小屋をさす言葉でした。
「庵」に僧侶が住むこともあり、住居としても用いられていた建物のようです。
「庵」は、それぞれ「○○庵」などと名前が付けられています。
例えば、出雲そばと関係の深い松江藩七代藩主、松平不昧公が愛した茶室は「明々庵(めいめいあん)」と名付けられ、現在でも島根県指定文化財として大切にされています。
床の間や延段などがしっかりと再現された明々庵は見学することもできるので、島根観光に来られた際にはぜひ立ち寄ってみてください。
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そばとお寺の深い関係
そば食文化はお寺と密接に繋がっています。
というのもそばは植物性の食べ物なので、精進料理を基本とするお寺の料理にぴったりでしたし、植物性タンパク質も豊富に含まれるので、そばを食べることである程度の栄養が摂れるからです。
また、そばは痩せた土地でも育つことから日本各地で作ることができ、日本各地に広がるお寺で容易に準備できたとも考えられます。
玄そばを挽いてそば粉にすれば、水を加えて練り混ぜるだけで簡単に「そばがき」になるため、手軽に食べられたのもまたポイントでした。
さらには、多数の参拝客が訪れた際には簡単にそばを振る舞うこともでき、あらゆる面で重宝したといいます。
仏教の宗派のひとつ天台宗や真言宗では、修行中の僧侶は肉食や魚食を断たなければならないほか、稲・麦・あわ・きび・豆の五穀をも断つ必要があります。
五穀にはそばが含まれていないので、修行中の僧侶にとってもそばは貴重な栄養源となるのです。
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「庵」を店名に用いたのは当時の流行!?
このように、お寺と深いつながりがあったそば。
僧侶の住居や小屋として使われた「庵」をおそば屋さんが用いるようになったきっかけも、お寺と密接な関係があったからといわれています。
江戸時代、浅草にあったお寺「称往院(しょうおういん)」には、「道光庵(どうこうあん)」という支院があったそうです。
この道光庵の庵主がそば処として知られる信州出身で、そば打ちの名人として名高かったのだそう。
そんなそば打ちの技術を生かし、道光庵で参拝者にそばを振る舞っていたところ、なんともおいしいと話題になったようです。
次第にそばを求めて道光庵へと足を運ぶ人が多くなり、道光庵という名前が有名になっていくにつれ、ほかのおそば屋さんもこの人気にあやかろう店名にと「庵」を付け出していったのだとか。
局所的に流行っていたことが徐々に広がっていき、時を経て、全国で「庵」の名称が見られるようになったとは、なんとも面白いものですね。
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